◆モノの値段は高騰している
連日、ニュースで取り上げられていますが、モノの値段が高騰しています。消費者物価指数では2020年を100とすると、2025年現在、約111です。しかしながら、この数字はあくまでも量販、小売が一般消費者に販売する価格です。昨今、流通の中で非常に力を持っているのは、量販店です。卸、メーカーに無理を言い(安値で買いたたき)一般消費者が購入する価格が10%の上昇に抑えられているだけなのです。モノの値段を分析するためにはもう一つ、重要な指標があります。企業物価指数です。この指数は企業間の取引価格推移を示す指標のこと。2020年を100とすると約130。業種によっては150をはるかに超え、200に迫る業界もあります。業者を挟む流通の上流に行けば行くほど、仕入れ価格が高騰し、販売価格が安値で買いたたかれている、というのが現状です。
このような厳しい現状で利益を出していくためには、価格改定(値上げ)は必要不可欠ですが、お客様自身も利益を確保するため、仕入れに対して非常にシビアになっています。見積り金額に対する「値切り要求」は当たり前になっていますが、多くの組織で、その対応も個人任せになっているのが現状。値切り要求を上手くコントロールできる営業もいれば全く対応できない営業もいます。その差は何なのでしょうか。今回はお客様の「高いなぁ(値切り要求)」に対する対応を解説します。
◆値切り要求に上手く対応できないAさん
営業支援を行った住設卸売業で営業を行うAさんのエピソードです。会社としても利益確保のため、商品の販売価格の見直しを全面的に行いました。取引先の工務店に見積りを提示したところ、「高いなぁ、2か月前購入したときより単価で30%値上げしていない?この価格では、おたくから購入はできないから、他社を当たらざるを得ない。会社に言って、もう一度見積り出してくれる?」「わかりました。再度、見積もりを出します」取引が無くなることを恐れたAさんは、上司にこのように報告しました。「見積り調整しないと、取引がなくなってしまいます。どのようにすればよろしいでしょうか。」確かに顧客から値切り要求されるケースは他にもありますが、Aさんは極端に多いのが実際のところ。そこでAさんの、他社での見積り提示の現場に同行しました。すると、問題点が複数みつかりました。
◆値切りを要求するお客様の心理状況~まずは断る~
過去、見積りを提出した際の状況を思い出してください。「安いねぇ、ウチはお金持っているからたくさん買うよ」などの反応はありましたか?ほとんどの場合、「他社はもっと安い」、「安くならない?」、「予算が〇〇しかない」などの理由で断ろうとしませんでしたか?ある調査によると、お客様が価格が理由で断る際、本当の理由を述べるのは38%であり、ウソの理由で断るのが62%と言われます。また、仕入れ価格の高騰に伴い、見積りに対してまずは「高い」と反応しているケースも多いです。つまり、お客様の一番最初の「高いなぁ」の言葉は挨拶程度のものであり、そこまで動じる必要はないということです。
◆値切り要求への対処法
モノの値段は今後下がるこでは、値切りに対する対処法はどのような流れが正しいのでしょうか。それが次の通りです
①事前の告知
日頃の商談で、「仕入れ価格が高騰しており、値上げの可能性がある」、などと得意先に説明していましたでしょうか。告知もせず、いきなり価格変更の見積りを提出していてはお客様は不信に思います。可能であれば、半年前より値上げの告知はしておくべき。
②ルール、根拠を書面に落とし込む
口頭の説明よりも書面の説明の方が納得感と信頼感があります。なぜ、この金額になったのか、現在の状況をもとに詳細な理由を記載した、組織で統一の書面を作成し、説明を行ってください。
③のけぞり法
「100万の見積りは高いなぁ、80万にならない?」と言われたとき、あっさりと「会社に相談します」と回答していないでしょうか。まずは、「2割の値引きですか?クビになるかもしれません」などの演技は必須です。お客様の態度の軟化につながります。
④非金銭的条件
上司、会社の承諾は必要ですが、お客様に見積り金額を受け入れて金銭以外の条件を提示することも利益を確保できます。代表的なものが、①おまけ、②付属品、③分割などの支払い条件、④納期短縮、⑤ワンランク上のものを提供、などです。
⑤譲歩
値下げするにしても譲歩の条件は2つあります。①値下げする理由を明確にする(単純な値下げではなく、ランクの下がる商品)②最初の譲歩幅を一番大きくし、更なる譲歩は幅を少なくし、これ以上値下げはない、と納得させる。
⑥主導権を握る
見積りを提出した後に、お客様から電話で値下げの要求があった場合にはその場で交渉をせず、必ずいったん電話を切ってください。なぜなら電話をかけてくる相手は戦略を立てた上で連絡をしているからです。主導権を握るためにもこちらから折り返し主導権を握ることが重要です。
⑦商談での値切りへの王道のステップ
以上を踏まえ商談での値切りへの王道のステップは次の通りです。「価格が問題なら品質を売る」⇒「品質が問題ならサービスを売る」⇒「サービスが問題なら条件を売る」
【ポイント】
モノの値段は今後下がることはありません。適正利益を確保するためにも組織一丸でお客様の値切り要求は対処する必要があります。
株式会社経営支援センター チーフコンサルタント 吉田 敬真