◆成果を上げる営業の条件
先日、若手社員向けの研修を実施した際、成果を上げる営業の条件について、議論していただきました。「モチベーションが高い」、「行動力がある」、「論理的思考ができる」など様々な回答が出てきます。どれも正解ですが、私が考える最も成果に直結する条件は、「素直である」ということです。仕事で経験値を積んでいくと、成功体験が生まれ、「自分のやり方こそが正しい」という自負が生まれます。この文章を執筆している私も、恥ずかしながらそのような錯覚によく陥ってきました。そして、貴重な成長の機会を幾度となく逃してきました。「自分が常に正しい」という思考は、成長の邪魔をしますし、仕事の改善にもつながりません。さらには周囲との人間関係を悪化させる可能性もあります。上司、先輩からのアドバイスはもちろん、同僚、後輩、部下、更には他の会社の方まで、全く異なる意見であっても素直に一度受け止めてみてください。耳の痛い指摘であっても成長につながり、成果に直結することは間違いありません。
◆人の意見を聞かないAさん
随分昔の話ですが、弊社に中途入社したものの、実績も出ず、すぐに退社してしまったAさんのエピソードを紹介します。Aさんは業種は違えど、前職では営業成績抜群。面接でも自信満々の態度。即戦力ということで、入社しました。新規の電話でも流暢にいくつもアポイントを獲得していきます。いざ、提案の段階になり、作成した企画書の社内チェックがありました。上司・先輩から何点かアドバイスを受けましたが、「前の会社ではこのような表現を使っていた。こちらの方が良いと思う」などと自分のポリシーを貫き、意にも介しません。結局、アポは取れるものの、成約に至らない商談が続き、ほどなく退社に至りました。その後、以前Aさんが提案した会社の社長を訪問したところ、「前に営業に来たAさんは態度、口調が好きになれなかった。おそらくあの態度であれば、どこに行ってもクレームになるのではないか」との意見を頂きました。提案内容もさることながら、与える印象がお客様を失望させ、成果が出ていなかったのです。
◆自分自身のことを正確に見るのは難しい
何か、失敗をしたとき「自らの行動を省み、反省をしなさい」と幼いころからよく言われたものです。しかしながら、本当に素直に自分の誤りを認めることなどできるでしょうか。難しいことです。鏡の前に立ち、自分の姿を見ることはできても、後頭部を見ることなどできません。松下幸之助氏はこのように述べました。「自分がどのような人間で、どんな長所や短所を持っているのかは、自分よりも他人のほうがよく知っていることが多い」、と。謙虚な態度で相手の意見を求めることの方がはるかに正確な自分を知ることができるのです。
◆素直であるために気をつけるべきポイント
それでは、成長につながる「素直さ」を持つためのポイントはどのようなものでしょうか。それが次の通りです。
①プライドを捨てる
「以前、大手に勤めていた」、「学歴が高い」、「前の部署でこのような実績を挙げた」そのようなプライドは全て過去の話であり、現在に関係ありません。重要なことは、いま成果を上げることができているか、どうかです。アドバイスを受けているにも関わらず、プライドを傷つけられたと感じているうちは、素直さは欠如しており、成長することはないでしょう。
②上手く行っているときだからこそ自分を過信しない
上手く行っている人は面白いほど人の意見をよく聞きます。企業も同じで、成功する企業の経営者は理念は持っていますが、同時によく人の意見も聞きます。不思議なもので、自分は成功したという自負や加齢などに伴う頑固さから、経営者が人の意見を聞かなくなり始めると途端に企業の成長も止まってしまうことも多くあります。過信は禁物であり、常に人の意見に耳を傾けてください。
③どんな相手でも意見をまずは受け入れる
「この人とは性格、価値観が合わない」、「自分より役職が低い人間の意見など必要ない」、「こいつは出来が悪い」先入観を一度捨ててみること。端(はな)から否定から入らず、どんな相手でもまず意見をいったん受け止めてみてください。立場は関係なく参考になる部分はありますし、成功事例を真似る(パクる)のは非常に有効です。
④自分を客観視する
自分のことは、自分が一番よく知っているわけではありません。常に「おごり高ぶっていないか」、「素直さが欠けていないか」を客観視してみてください。そして、時には周囲に意見を求め、自分がどのように見えているかを知ることも、自己の改善点を把握するためには効果的です。
⑤常に成長意欲を持つ
成長のために、常にやり方を改善していく、そして現状に満足せず更なる成長を目指していく、これこそが重要なポイントです。人間現状に満足したその瞬間に素直さを忘れていってしまいます。
⑥素直さはチームの潤滑油にもなる
チームのメンバーが素直さを持つことは組織の潤滑油にもなり得ます。メンバーそれぞれの意見を偏見なく聞き入れることで、リーダーが思いつかない斬新なアイディアを取り入れることができます。また、メンバーそれぞれがチームに対する貢献意識も持つことができ、意欲も高まります。
【ポイント】
素直さは個人の成長、チームワーク向上に非常に重要な要素です。リーダーは、メンバーに「素直さ」の重要性を徹底的に落とし込んでください。そして、何よりもまず、自分自身が素直になり、成長し、組織を活性化していくことが求められます。
株式会社経営支援センター チーフコンサルタント 吉田 敬真