■人事制度は、「管理の仕組み」ではなく「経営実行の装置」
「人事制度は、社員が増えてから考えればいい」、「評価制度を作るとかえって不満が増えそうだ」。中堅・中小企業の経営者の方から、こうした声をよく耳にします。
しかし、実際の現場では人事制度を整えないまま成長したことによる歪みが、経営課題として顕在化しています。たとえば、こんな悩みはないでしょうか。頑張っている社員とそうでない社員の差がつけられない、幹部や管理職の役割が曖昧で組織が回らない、若手が育たず定着もしない、社長の判断がすべてで権限委譲が進まない。これらはすべて、人事制度が「ない」ことによって起きる経営課題です。
■人事制度は「人を管理する仕組み」ではない
人事制度というと、「評価」・「給与」・「査定」といった管理色の強い仕組みを想像されがちです。しかし、本来の人事制度の役割は違います。人事制度とは、経営の考え方を社員の行動に落とすための「翻訳装置」です。社長がどれだけ良い経営方針を掲げても、何を頑張れば評価されるのかどんな人材が将来活躍できるのかが分からなければ、社員は動きようがありません。人事制度は、「経営の意図」と「社員の日常行動」をつなぐための仕組みなのです。
■なぜ中堅・中小企業ほど人事制度が効くのか
「人事制度は大企業のもの」と思われがちですが、実は中堅・中小企業こそ効果が出やすいのが人事制度です。理由は3つあります。
1つ目は、社長の考えが制度に反映しやすいこと。大企業のように複雑な調整がなく、経営者の価値観を素直に制度へ落とせます。
2つ目は、制度がそのまま文化になること。人数が限られている分、評価基準や役割定義が行動に直結します。
3つ目は、「人」の差が業績に直結すること。中堅・中小企業では、一人ひとりの成長が、売上や利益に大きく影響します。
だからこそ、人事制度は「守りの仕組み」ではなく「攻めの経営施策」になるのです。
■よくある失敗「制度を部分最適」で作ってしまう
人事制度がうまく機能しない企業には、はっきりとした共通点があります。それは、制度を「部分最適」で作ってしまうことです。 例えば、社員から不満が出ているから評価制度だけを見直す、賃金の公平性を保ちたいから給与テーブルだけを整える、といった対応です。
しかし、このような対症療法的な制度導入は、ほとんどの場合うまくいきません。むしろ、「評価が厳しくなった」「給料の根拠が分からない」といった新たな不満を生み、制度不信を招くことさえあります。 なぜなら、人事制度は「等級(役割)」・「評価(成果と行動)」・「報酬(処遇)」・「育成(成長)」が一体となって初めて機能する経営の仕組みだからです。
役割が曖昧なまま評価制度だけを作っても基準は不明確になりますし、評価結果が処遇に連動していなければ社員の納得感は生まれません。制度の一部だけを整えても、組織は決して変わらないのです。
■人事制度づくりは「今の課題」から始める
もう一つ重要なのは、「制度を作ること」自体を目的にしないことです。本来、人事制度は経営課題を解決するための手段です。幹部が育たない、若手が定着しない、評価に不公平感がある、社長依存の組織になっている こうした課題こそが出発点でなければなりません。
そして、「どんな人材が増えれば会社は前に進むのか」、「社員に何を期待するのか」を明確にすることが制度設計の第一歩になります。 人事制度とは、人を管理するためのルールではなく、会社を成長させるための経営装置です。 完璧な制度を最初から目指す必要はありません。
しかし、自社の課題と向き合わず制度だけを整えても意味はありません。重要なのは、経営の意思を明確にし、それを仕組みに落とし込むことです。それこそが、人事制度づくりの本質なのです。
この連載では、実例を交えながら解説していきます。
株式会社経営支援センター 人事コンサルタント