◆勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし
この言葉は、江戸時代のある藩主が用いた言葉ですが、野球の野村監督が好んで使った言葉として有名です。「勝つときには理由も分からないまま勝つ場合もあるが、負けるときには必ず負ける要因がある」という意味です。営業における「勝ち」とはもちろん、契約を勝ち取る「受注」です。逆に「負け」とは契約に至らなかったケース、すなわち、「失注」です。多くの組織では受注した際、成功体験発表などを行い、情報共有や要因分析を行っているものの、失注分析を行っているところが少ないのが現状です。「こうすれば必ず売上が伸びる!」、や「面白いように成約できる」などの文言がビジネス本やセミナーにはあふれていますが、「受注」にはその時の状況、ラッキーパンチ、本人のキャラクターやスキルなどもあり、その通りにしても上手くいかないことも多いです。しかしながら、「失注」には具体的な営業の弱点が潜んでいます、失注に正面から向き合い、問題点を洗い出すことで、次の成功確率が上がっていくのです。
◆よくある失注報告と改善策の事例
失注分析において注意すべき点は、原因他人論にならないことです。原因を他のせいにしていては大きな成果を上げることはできません。ここで、営業担当者が報告しがちな偽装失注事例とその改善策を紹介します。
①相見積りで一番安い会社に決まりました(価格で負けた)
HP製作会社Bさんの事例。WEBサイトリニューアルの提案。顧客からは、「予算をできるだけ抑えたいので相見積もりを取っている」と言われ、450万円の見積りを提示。後日、Bさんの会社に対する報告は、「他社が400万円で提示したため、価格で負けました」とのこと。顧客へのインタビューで判明した事実は次の通りでした。確かに見積り金額が他社の方が安かったのは事実でしたが、それ以上に、Bさんの提案には価格差以上の付加価値が感じられなかったというものでした。つまり、価格ではなく提案力不足が原因だったのです。
(改善策)
・お客様のニーズを徹底的に把握するためヒアリングシートを活用し、価値を感じていただく提案を行うこと。
②競合のブランド力で負けました
中堅ハウスメーカーAさんの営業。30代夫婦に対する、注文住宅の提案。お客様は複数のハウスメーカーを並行して検討が進んでおり、他社よりも200万円安く見積もりを提示したものの、結果的に競合と契約されてしまいました。Aさんの日報には、「競合他社の方がブランド力があり、デザインが好みとのことで負けました」との記載。しかしながら、顧客アンケートで判明した事実では、
Aさんは「スペックの説明」に終始し、「暮らし」のイメージをつくれなかったものの、競合他社の説明は「共働きで子育てをする際の間取り」や「10年後の子供の成長に合わせた部屋の使い方」など、具体的で住んだ後が想像できる提案でした。
(改善策)
・初回面談では「性能の説明」は極力行わず、顧客の現在の生活リズムや将来の不安を聞き出すこと。
・図面や見積もりだけでなく、暮らしのイメージを提案すること
◆失注分析の具体的なやり方
それでは、次の成功確率が上がる具体的な失注分析のやり方はどのように進めていけば良いでしょうか。
①失注を責めない文化
あるシステム会社では、失注理由の入力内容を、そのまま個人の評価を下げる材料として使わないルールを明文化しており、「事実を迅速かつ正確に共有したこと」自体を評価しています。失注報告を受けた際、上司が最初に言うべき言葉を「なぜ負けたんだ?」から「分析・報告ありがとう。次に活かそう」へと統一し、詰められる場ではなく、次の行動を相談する場へと変えます。
全社チャットや定例会議でも、失注が共有された場合には、「ナイス失注共有」、「非常に学びの深い失注分析」、「競合の最新動向をいち早く捉えた報告」などと称賛され、オープンにすることが評価される文化を作っています。
②顧客の本音を聞き出す
営業担当者レベルでも「今回、導入いただけなかったのはどのような理由でしょうか?」や「他社様にご決断された理由を率直に教えてください」、「最終的に決め手となったポイントは何でしたか?」など、確認をすることが重要です。また、組織レベルでも、定期的な顧客に対するアンケートを行うことが求められます。
③なぜなぜ分析で真の原因を探る
・なぜ高いと言われたのか→競合より見積りが30%高かったため。
・なぜ高いのに納得してもらえなかったのか→導入によるメリットを数字で示すことができなかったため。
・なぜ、数字で示すことができなかったのか→初回商談での顧客の現状のヒアリングが不足していたため。
などと、表面的な理由ではなく、最低3~5回、「なぜ、なぜ」と分析してください。
④組織として改善策を実行する
分析結果は個人のみならず、組織全体にフィードバックして、仕組みを変えることが大切です。決裁者への提案が原因で失注したのであれば、企画書、提案書のフォーマットを改善する。クロージングのロープレを徹底する、など。価格が原因で失注したのであれば、顧客のヒアリングシートのブラッシュアップを行い、真のニーズを把握することに重点を置く、など。
【ポイント】
失注は宝の山である。鋭く失注の原因を分析し、対策を打つことで、受注確率は格段に上がっていく。
株式会社経営支援センター チーフコンサルタント 吉田 敬真