量からしか質は生まれない

量からしか質は生まれない

2022/07/20

量からしか質は生まれない

今年も新社会人が会社に入社してきました。私も4月だけで50社300名以上の新入社員研修を担当しました。どの研修の中でも毎回受講者の方に投げかける質問があります。「電話に苦手意識を持っている人はいますか?」今年もこの問いかけを行いましたが、実に90%以上の方が手を挙げました。10年前も半数以上の方が手を挙げていましたが、いまは電話が好き、という新人はいないのではないか、と思えるほどです。学生のコミュニケーションはメール、SNSを使い、友人同士で電話を使う機会は無いのかもしれません。しかしながら、現場に配属されれば、お客様、他部署から毎日何十回と電話はかかってきます。電話お断り、と言って応対を拒否することはできません。では、苦手意識を克服するためにはどうすれば良いでしょうか。これは「量を重ね、経験を積む」以外に最短の手段はないのです。

私は電話が苦手で・・・

    食品卸売業A社、営業1課の営業事務で入社3年目の佐藤さんの後輩として、この4月に新卒入社した横田さんが配属されました。山田課長より「指導係としてしっかりと面倒を見てあげてください」と指示を受けた佐藤さんが横田さんに仕事の進め方を指導しています。ある日、社外からの電話の着信がありましたが、3コール以上鳴っても横田さんは受話器を取ろうとしません。仕方なく佐藤さんが対応をしましたが、その後もこのような経緯が何度か続きました。佐藤さんは、横田さんに言います。「電話の受け方は研修で習わなかった?2コール以内で対応しないとお客様に失礼にあたるんだよ。特に新人はかかってきた電話は積極的に取らないと。」横田さんは答えます。「学生時代からほとんど電話をする習慣が無くて怖いのです。先週電話対応をしましたが、全く会話ができず、それ以来、電話が鳴ると心の中で誰か受話器を取ってくれ、と思ってしまいます。」佐藤さん「そんなこと言っても・・・取ってくれないと困るんだけどね。」

    佐藤さんは山田課長に相談します。「最近の新入社員は電話応対苦手だよね。苦手でもまずは経験し、量を重ねるのが大事なんだ。横田さんにそのように指導してくれるかな。」

解説 

    「量からしか質は生まれない。」誰しもこの言葉は聞いたことがあるでしょう。受験勉強、スポーツの上達、そして仕事の修得などで使われる概念で、「量質転化の法則」とも言われます。しかしながら、やみくもに量をこなせば質が上がってくるというわけでもありません。例えば、新規開拓営業で何も工夫せずに1日100件電話をかけるだけ。次に、どうすればアポイントが取れるか考え、口調、内容を変えながら電話をする。取得率が上がるのはもちろん後者です。それでは、どのように部下、後輩に質の向上を目指し、量を課していけば良いか、それが次の順序です。

1.まずは正しいやり方、理論を解説する

    例えば、多くの上司は、テレアポをするとき、「昔はこうやってアポを取ったんだ」と経験を語る。しかし、部下の心の中で「それはあなただからできて、全ての人に当てはまるわけではない」と感じている。指示だけ、経験だけ、ではなく理論+経験で説明する。

2.モチベーションは後からついてくる

    脳科学的に言うとモチベーションは行動の原動力というわけではない。行動をすることによって後から湧いてくるのがモチベーション。正しいやり方を理解したら強制的にでも行動を開始させる。

3.苦手意識や好き嫌いがあるのは習慣化できていないだけ

    歯磨きが嫌いという大人はいない。しかしながら私の2歳の息子は「食後、寝る前は歯磨きをしなさい」、と言ってもまだ逃げ回っている。これは単に習慣化されていないだけ。行動は習慣化すれば好き嫌いの感情が消え、やってあたり前となる。

4.40~50回の反復連打。行動の継続

    毎日やらなければならないものであれば、40~50日継続すればその行動は習慣となる。60日以上継続すれば、その行動をしないことが気持ちが悪い、とまで感じる。

5.コツをつかむ⇒改善

    行動が習慣化されればやり方を見直す絶好の機会。もっと効率のあがるやり方は無いか、もっと成果のあがるやり方はないか。間違っても先に効率を考えてはいけない。習慣化される前に効率を求めるのは、やらない理由、出来ない言い訳探しとなる。

7.量から質が生まれ、生まれた質から量が増える

    大量行動から質が高まり、高まった質が更なる成果を生み出していく。まさに行動の善循環。正のスパイラルとなる。

    横田さんは佐藤さんの指導のもと、電話応対のロールプレイングを何回も行いました。そして、上手くできなくても良いので、まずは率先して電話に出ることを継続しました。「お電話ありがとうございます。〇〇〇社、新入社員の横田でございます」と元気な声で対応することを心がけます。2カ月ほど経ったある日のこと、横田さんは佐藤さんに次のような話しをしました。「先輩ありがとうございます。電話応対は本当に苦手で、実は電話応対が理由で早々に会社を辞めたいな、とまで思ったほどでした。でも気づいてみたら、何の苦もいまは感じません。やはり、量を重ねることは大事なんですね。」それを聞いた佐藤さんは非常に嬉しく思い、後輩指導のやりがいを感じました。

ポイント

    量からしか質は生まれない。仕事において最初から完璧にできることはない。まずは大量行動。量を重ねることで苦手が習慣となり、更には質も高まっていく。

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